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Report ELMI2015

ELMI 2015 ミーティング・レポート

自然科学機構
基礎生物学研究所
EMBLハイデルベルク

三浦耕太 miura@embl.de


European Light Microscopy Initiative (ELMI)の第15回年会が2015年5月19日から22日まで、スペインのバルセロナ近郊にある街シッチェス(Sitges)で行われた。およそ460名が参加(うち170名は企業からの参加)した。その様子を以下報告する。

一日目

夕方から年会の登録が始まり、簡単な歓迎スピーチの後、カナリア天文学研究所のアレックス・オスコズ教授による「回折限界における天体観察」の講演があった。重力レンズの話や、ブラックホールの画像を紹介しながら、天体物理におけるイメージングの話となった。その後、ポスターを持参した研究者らによるスライド数枚の研究紹介(Fast track session)が行われた。ポスターのテイクホームメッセージだけをそれぞれの著者が口頭で次々と発表し、参加者に概要を広く知ってもらうことで夜に予定されたポスター発表の道案内になる、という狙いがある。ポスターセッションでは、レセプションの立食からそのままビールを飲みながらポスターの前で議論を行った。これはELMIの恒例になっている。

二日目

午前中に二つのセッション、午後は企業によるデモであった。

CLEM

最初のセッションは、電顕やCorrelative Imaging(光顕で撮影した対象を固定し、電顕で詳しい構造を調べる手法、CLEMと呼ばれる)のセッションで、EMBLのジョン・ブリグスがCLEMのデータ量で圧倒的な存在感を示した。フランシス・クリック研究所のルーシー・コリンソンは手法の開発に関する詳細を解説した。目下、一細胞あたりの三次元画像のデータサイズは150Gbになるそうである。今後、データマネージメントはよりクリティカルな技術基盤となっていくことが伺われた。生物学的な面では、パリのCNRS IBENSのアリス・ムニエルによる絨毛細胞における特殊な中心小体の増幅の過程をCLEMで解析した発表が行われ、ひとつの中心小体から一度に複数の娘中心小体が形成される様子は聴衆一同を驚かせた。

機能イメージング・多波長イメージング

二番目のセッションは、機能イメージング、及び多波長イメージングのセッションで、パリのサンルイス研究所のマヌエル・テリーによるストレスファイバーの構造の力学的な構成に関する解析の発表がまず行われた。テリーは院生・ポスドク時代にマイクロコンタクトパタンをつかった細胞の形状制御で著しい成果をあげており、今回はその手法を使って細胞の形を制御し、細胞骨格の分布と構造の物理的基盤を解析していた。

ニューメキシコ大学のキース・リドケはQドットを使った多波長・高速イメージングの開発について紹介した。8波長・30fpsでの撮影が可能、とのことで、複数種の分子を同時にトラッキングする様子を動画で紹介していた。デュッセルドルフ大学のクラウス・ザイデルは、多波長イメージングとFRETを組み合わせ、G蛋白にカップルしているTGR5受容体の重合過程(oligomerization)の詳細について紹介した。

カリム・エルサヤドは、Brillouin散乱顕微鏡法による細胞の硬さテンソルの測定の紹介をした。ラマン散乱が分子の振動を反映するのに対し、ブリュアン散乱は、多分子の協調した振動を反映する。5GHzまでの弾性係数の測定が可能、とのことである。ただし、信号強度が微弱でスペクトルの解析や空間解像度の向上は容易ではない、とのことで、今後に大きな課題があることが示唆された。アムステルダム大学のエリク・マンダース(共局在解析で有名な"マンダース係数"の開発者)は、スキャン方法を改善することにより、共焦点顕微鏡法の解像度を二倍に向上させた、という報告をした(論文)。ゲッチンゲン大学の医学センターのフレッド・ウーターズは、フェーズの制御をカメラで行う”ソリッドステートFLIM”による高速のFRETイメージングを紹介した。

午後はフルに企業のデモおよび企業の担当者とのディスカッションの時間にあてられた。

夕方からはコロンビア大学のラファエル・ユステ教授によるキーノート講演がおこなわれた。脳の創発性がどのように生じているのか、という研究で、視野に特定の刺激を与えた時のサルの脳の神経回路興奮パタンを、二光子顕微鏡をつかったカルシウムイメージングで可視化している。オプトジェネティックスによる神経の興奮の制御も行っており、人工的にフィードバックを与えた時の影響などもかなり詳しい結果がでているLink。臨床的にはこの方法でネズミを使っててんかんの発作を抑制することが可能になっている、とのことである。

三日目

ナノスコピー(超解像)

スペインのフォトニクス研究所(バルセロナ)のメリケ・ラカダマヤリは遺伝子発現の制御という視点からヌクレオソームの構造の詳細な超解像解析を行った。複数のヌクレオソームからなるクラスタの構造は細胞腫ごとに違っている、ということを発見した。

ライトシート顕微鏡およびメゾスコピックイメージング

マックスプランクCBGのヤン・ホイスケンはゼブラフイッシュの心臓の発生過程、および拍動のSPIMによる解析について紹介した。画像のクオリティとしては今回の学会で最もクオリティの高いものであった。ライナー・ハインツマンはラマンSPIMを改良している状況を報告した。レミ・ガランドは、使い捨てのプラスチックチップのウェル毎に反射鏡を装着し、ハイスループットでSPIMイメージングを行う方法を紹介した。

四日目

 画像解析

最初のセッションは画像解析のセッションで、私が座長を務めた。一番目の発表者はフライブルク大学のオラフ・ロネンベルガーで、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使った電顕・明視野画像の細胞の分節化について発表した。このアルゴリズムは畳込みでスケールを下げる収縮フェーズとその後もとの画像のスケールに再展開する拡大フェーズから成り、図示すると”U”の形になるため「U-net」と名づけられている(論文)。比較的少数のアノテーションで学習を行うことが可能であり、学習後の処理は512x512の細胞の画像で数秒とかなり高速である。CNNは ディープラーニングと呼ばれる機械学習技術の一手法であり、この数年さまざまな音声認識・画像認識コンペで著しい成果を上げている。Olafらによる実装も生物関連のチャレンジ(画像解析能力のコンペ)で連勝している。

次の発表者はパリのパスツール研究所のクリストフ・チマーだった。酵母におけるDNA二重鎖切断の相同組換えによる修復の効率が、単に物理的な法則に従っているだけではないか、ということを画像解析を巧みに使って示した。具体的には遺伝子Lociの三次元画的な確率分布を、数千の核から遺伝子ごとに測定し、相同遺伝子間の距離が短いほど、修復効率が高い、という結果を導いたLink

3番目の発表者は合衆国・ケンブリッジのブロード研究所のアンネ・カーペンター。High Throughput Microscopyによる大量のデータを簡単に解析するためのツールとして開発されたCellProfilerとそのさまざまな応用例を紹介した。CellProfilerは「測れるものは全部測ってあとで考える」をモット−としている。CellProfilerは、pipelineと呼ばれる画像処理・解析工程をGUIで構築できるようにした、という点に新規性があった。ヨーロッパでも広く使われており、さらにKNIMEという別のGUIプログラミングのプラットフォームとのバックエンドの共通化が計画されている。

4番目と5番目はポスター発表から選ばれたショートトークで、最初にダブリン大学のティレン・クランジックが画像の肌理や、細胞内の対象の構造(ERES)の細胞内分布を測定し、教師なしの機械学習で、新規のものも含めさまざまなフェノタイプを検出することができた、という発表をした。次にEMBLハイデルベルクのアンドレア・ピッコが光学顕微鏡を使って5nmの解像度で超分子構造の構造解析を行った、という報告を行った。酵母の細胞膜上に超分子構造が結合するための蛍光ラベルしたタンパク質を発現させ、一方で超分子構造のサブユニットのN末・C末をそれぞれ蛍光標識し、イメージングを行った。多数の画像に基づく確率分布から、分子構造を再構成した。調べたのは、exocystという分泌小胞と細胞膜をつなぐ超分子構造である。

ガン及びバイオメディカルイメージングのセッション

アドリル・ボルゴフは数種のナノパーティクルをコントラスト材として用いた第二・第三高調波発生顕微鏡法により、脂質・コラーゲンといった細胞を構成するさまざまな分子群を検出する可能性を示した。マーク・ベンドレルは吸入による日和見感染症である真菌症疾病の主たる原因菌、アスペルギルス・フミガタスを検知する蛍光プローブを開発した、という報告をした。

モデル生物の展開

最後のセッションは、マイナーなモデル生物に関する話題の提供を中心としており、ユニークな対象故に、それに対してどのようにイメージングでアプローチするのか、というブレーンストーミングにう近い雰囲気のセッションであった。パリのジャック・モノ−研究所のジュリエット・アジムザデはプラナリアの絨毛運動の解析の話をした。中心小体をRNAiで阻害することにより、なめらかなグライディングの運動が尺取り虫状の運動にモードを変える様子はじつにはっきりしておりかなりのインパクトがあった。ちなみにこの処理では細胞分裂や組織の再生は阻害されない。また、増殖中の細胞には中心小体が見られず、プラナリアでは中心小体の役割は絨毛運動にのみ特化しているのではないか、とのことだった。また、運動にそのもの関してはかなり詳しい解析がなされており、絨毛の生えている角度と、運動方向の関係について解析中、とのことである。リオンのゲノム機能研究所のミカリス・アベロフは、Parhyale(モクズヨコエビ)の形態形成の研究の話題を提供した。Parhyaleはかなり複雑な構造をもつ生体になるため、その過程をつぶさにイメージングするというプロジェクトが目下進行中であり、イメージングに関しては続く最後の発表者であるパベル・トマンカクと共同研究をしており、パベルトマンカクは、SPIMを使って得た膨大なデータの3次元時系列の再構成のテクニックと、その結果に関して話した。発生生物のSPIMで取得されるデータは、一日あたり180テラバイトであり、これはなんとCERN全体が取得するデータ、一日あたり82TBを凌ぐデータ量である。

サテライト/ミコア・ファシリティ・ーティング

年会は19日午後6時に始まったが、この日はその前に朝9時からコア・ファシリティの課題にフォーカスを当てたサテライトミーティングが行われた。話題はイメージングの技術的な話から、イメ−ジングファシリティの運営・マネージメントテクニックまで、広くカバーされており、学会発表ではうかがい知ることのできない現場情報が交換される。以下に発表のタイトルを日本語でリストし、簡単に解説する。

  • ファシリティにおける大情報スクリーニング(high content screening)の導入:顕微鏡以外に何に注意すべきか
    • ETHのファシリティ責任者、チュチュ氏による発表。HCSを成功させるにはアッセイの開発がもっとも重要だが、これに半年から一年半かかるという点に留意すべき、と強調していた。ロボットは高度で複雑なほど柔軟性が低い。高性能だからよい、ということではない。ETHではユーザに課金していて、プロジェクトあたり最低でも200万円。
  • ファシリティにおける非商用顕微鏡の導入・ライトシート顕微鏡の例
    • 自分で顕微鏡を組み立てる際の経験とコツ、注意すべき点など。
  • 画像分節化のための機械学習
  • 顕微鏡対物レンズの値と形式
    • ライカによる対物レンズのスペックの解読法指南
  • 科学とコーヒーのための事務作業からの解放-iLab
    • 企業によるラボ・マネージメントソフトの紹介
  • CTLS(Core Technologies for Life Sciences)の最新情報
    • パスツール研究所のスペンサー・ショートによるファシリティ・ネットワークの話。イメージングのみならず、バイオメディカル関連の全てのファシリティのネットワークである。米国にすでにあるThe Association of Biomolecular Resource Facilities (ABRF)との連携を目的として、同じようなネットワークを欧州でも立ち上げようとしている。なお、ABRFには光学顕微鏡部門が含まれている。
    • "CTLS 2014 is the first Pan-European Core Facility Congress dedicated to Core Facility Staff as well as other Life Science research staff." Link
  • 生物画像解析者の発見・Biii.infoとEubias
    • 私の発表。生物顕微鏡画像を扱うエキスパートは二つのタイプに別れ、かたやアルゴリズムの開発・実装の専門家、かたやそれらのライブラリのツールを組み合わせながら測定として解析を行う専門家がいる。後者は新しい専門家なので、新たなネットワークを形成しつつある内容。
  • ファシリティの顕微鏡の性能評価
  • 光学顕微鏡の原理の教育用ツールキット
  • イメージング・ファシリティをどうやって作るか?どこで情報を得るか、どのようにコミュニティに提供するか
    • コペンハーゲンで最近新たに設置されたコア・ファシリティの設計の経験談。特に空調が均一でないことによる測定の誤差などについて話題になった。これはどこも問題を経験しているらしく、温度センサーの場所が重要なことがわかった、等々意見があった。また、国による空調の法制度の違いが統一的なガイドラインの作成を阻んでいる、など。最終的には、顕微鏡会社は必要な空調のスペックを公表してもらうように働きかける、ということになった。
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