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欧州のバイオイメージングコミュニティの一般情報

欧州のバイオイメージングコミュニティの一般情報

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自然科学研究機構欧州拠点
基礎生物学研究所
欧州分子生物学研究所ハイデルベルク

三浦耕太(miura@embl.de)

このページについて

バイオイメージング技術の複雑化に伴い、技術情報・人材の交換を目的とするネットワークが国の枠を超えて広がっている。しかしながら、欧州のバイオイメージング・コミュニティはさまざまなネットワークによって組織化されており、日本からはよくわかりにくい、との声をよく耳にする。これは日本と欧州の国際研究連携という意味でも、相互理解のネックになってしまっているものと思われる。

そこで以下にキーワード解説の形式で情報を提供しようと思う。ここがわかりにくい、これについて解説があるとよい、等のコメントは気軽に三浦(miura@embl.de)まで連絡していただければ、反映させて情報を充実させられるのでとてもありがたい。

なお、以下の情報は随時新たに項目を加えたりアップデートするつもりである。また、このページは、理研QBICの大浪さんと、基生研の上野さんの賛同によって掲載が可能になった。ここに謝意を表するものである。

コア・ファシリティ (core facility)

近年さまざまな研究所に設置されているイメージング・ファシリティは、一般に「コア・ファシリティ」とよばれる研究体制の一部であるが、この21世紀に急速に広まった体制のありかたは、あまり日本で馴染みがないかもしれないので、少々解説する。

生物学研究に必要な技術的基盤は急激に複雑化しており、一研究室で財政的にも人材的にもマネージするにはあまりに多岐に渡る、という状況が一般化している。超一流のプロジェクトにはこうした高度な技術を複数組み合わせて論文に仕上げるが、すべてを一研究室の内部で行える環境は、そのセットアップだけで膨大な時間と労力が必要だろう。

そこで現代的な生物学研究に必要な最先端の技術に常にアクセスできる環境を研究所レベルで用意し、機器や人材といったインフラを共有する、というコンセプトがコア・ファシリティの考え方である。コア・ファシリティは研究支援サービスの一貫として捉えられると同時に高度な専門知識と技術が必要となるので、科学コミュニティの新しい体制の一部ともいえる。

なお、コア・ファシリティ、という単語のファシリティは日本語で「施設」と翻訳されることが多いが、その原義である"facilitate"に「促進する」という意味があるように、効率化、という語感が伴っている。更に、「コア」は「核」である。「コア・ファシリティ」はしたがって、研究者各々が研究の核となる技術にアクセスして効率的に研究を進める、というニュアンスになる。

EMBLを例にとると、2001年にコア・ファシリティが発足した。人員や部門は拡大し、目下次のような部門がある。

  • 最先端光学顕微鏡コア・ファシリティ(Advanced Light Microscopy)
  • 化学生物学コア・ファシリティChemical Biology
  • 電子顕微鏡コア・ファシリティElectron Microscopy
  • フローサイトメトリー・コア・ファシリティFlow Cytometry
  • ジェノミクス・コア・ファシリティGenomics
  • 蛋白発現・精製コア・ファシリティProtein Expression and Purification
  • プロテオミクスコア・ファシリティProteomics

コア・ファシリティは、最先端技術を管理・提供・開発するだけではなく、専門知識に基づく各研究プロジェクトへのコンサルティング、共同研究、コースやワークショップなどで所内・所外の研究者に技術を伝達するという役割も担っている。いずれのファシリティにも専任のスタッフが4名から8名所属しており、彼らの殆どは学位をもつ研究者である。

ポスドクの後にPI、教授、といったコンベンショナルなキャリアの場合、ラボの責任者になったとたんに論文の執筆とグラント獲得に明け暮れ、実験の時間がなくなる、というのが生物学者の現状であるが、こうした管理職になるよりも、常に現場で手を動かしていきたい、というタイプの研究者がファシリティのスタッフになることを選ぶ、というオルタナティブなキャリアパスになりつつある。

ファシリティの利用者が執筆する論文にファシリティのスタッフが著者として加えられるのかどうか、という質問は日本の研究者にしばしば聞かれることなのだが、このことに明確な規定があるファシリティはあまりない。プロジェクトへの関わり方によって柔軟に決められることがほとんどである。たとえば、顕微鏡を利用した、というだけならば、論文に登場することはないが、顕微鏡をスタッフがある程度カスタマイズして使う、といった場合には、論文のメソッドをスタッフが執筆する必要性がでてくるので論文の著者の1人となるであろう。しかし、カスタマイズの仕方を助言したにとどまるならば、謝辞に名前が加えられる程度、というのが目安だと思われる。また、ファシリティのスタッフ自身がその技術に関する論文やレビューを執筆することは珍しいことではない。

EMBLの場合はファシリティの使用は原則無料である。課金等がないのは特殊であり、他の研究所・大学等のコア・ファシリティでは時間単位でユーザに課金している場所が多い。時間単位でユーザを管理するソフトなども登場してきているのは、コア・ファシリティという新しい体制が一般化していることの現れであろう。

他の例としてマックスプランク生化学研究所のコアファシリティには以下のような部門がある。

  • 生化学施設コア・ファシリティ Biochemistry core facility
  • 動物飼育ファシリティ Animal Facility
  • 結晶化ファシリティ Crystallization Facility
  • イメージングファシリティ Imaging Facility
  • 抗体化サービス Immunization Service
  • 遺伝子変換コア・ファシリティ Transgenic Core Facility
  • 計算センター Computing Center
  • EU連携オフィス EU Office
  • 国際連携オフィス International Office
  • 図書館 Library
  • 情報取得サービス Information Retrieval Services

この研究所の場合には、以前から存在したサービス部門も統合してまとめてScientific Service facilitiesとして組織化しているので、図書館などのインフラも含まれている(MPI生化学のファシリティ・ディレクタの言)。

ファシリティ全体のネットワーク

バイオイメージングのファシリティのネットワークとして、欧州ではELMIおよびEuroBioimagingがあるが、米国にはELMIに相当するネットワークは存在しない。コア・ファシリティ全般のネットワークとしてThe Association of Biomolecular Resource Facilities (ABRF)があり、その一部門にLight Microscopy Research Groupがある。

一方で欧州にはコア・ファシリティ全般を網羅するネットワークは存在せず、目下パスツール研究所のSpencer Shorteを中心にその組織化が進行中である。このネットワークはCore Technologies for Life Sciences(CTLS)といい、第一回の会合が2014年にパリで開催された。

European Light Microscopy Initiative (ELMI)

URL: http://www.embl.org/elmi/

企業を含むバイオイメ−ジング関係者が集まるミーティング。イメージング・ファシリティのスタッフが中心である。ELMIは2000年にハイデルベルクで発足し、2001年より毎年、欧州の各地で年会を行っている。年会のみ(通常4日間)の活動であり、年会費等はない。学会形式であるが、午後にはイメージング関連企業(顕微鏡会社など)によるデモが長時間スケジュールされるのが特徴的である。FOMのセッションと比較すると、顕微鏡そのもの、というよりも生物学での応用にフォーカスの中心がある。

34カ国からのメンバーからなり。欧州外からも米国、カナダ、シンガポール、オーストラリア、ブラジルなどのイメージング・ファシリティからの参加がある。

特徴的なのは企業とのコミュニケーションが密であることである。アカデミアで開発された先端イメージング技術を企業がコンシューマ向けに知識・機器を一般化する、という方向や、企業同士が性能を競い合う、あるいは、アカデミアを企業含めたイメージング関連の活発な人事流動などを促している。

2015年の年会の参加者は約460名で、スペインのバルセロナ近郊で、4日間の日程で開催された。年会のレポートはこちら(日本語)にある。

EuroBioimaging (EuBI)

URL: Euro-Bioimaging

ELMIが年会を中心とする情報交換の場であるのに対し、EuroBioimaging(EuBI)は更にそれを具体的な連携のネットワークとして機能させるための2010年に始まったプロジェクトであり、準備期間を終えた後に2016年から本格的に始動する予定である。

立ち上げの時にはEUの科学技術開発支援フレームワークFP7のプロジェクトであったが、2014年からその後継である科学技術開発支援フレームワークHorizon2020によってサポートをうけている。

各研究所のファシリティはそれぞれインフラの内容が異なっている。更に、顕微鏡そのものを開発している研究室などでは、そこにしかない高度な顕微鏡を管理している。そこで、こうした欧州全体のイメージング・インフラをネットワーク化して、研究者があらゆるタイプの高度なイメージング機器に自由にアクセスできるようにしよう、というのがEuBIの構想である。いわば、コア・ファシリティという理念を欧州全土に拡大した、ということになる。そのインフラモデルは以下の図に集約されている。

image

上の図をユーザの視点からまず説明すると、なんらかのイメージングを必要とするプロジェクトをEuBIのウェブ・ポータルに申請し、内容と地理的にユーザーからアクセスしやすいEuBIのノードが推薦される。ノードには二種類あり、多種の顕微鏡システムを提供する"Multimodal"ノードと、特殊な、半ば研究開発中の顕微鏡を提供する"Flagship"ノードに分かれる。前者は一般的なイメージングファシリティ、後者は例えばシュテファン・ヘルの研究室のように、顕微鏡の開発を行っているノードである。ユーザはそのノードにサンプルを持込み、一定期間滞在してそこの顕微鏡システムを使ってデータを取得する。データの解析は、画像解析専門家の独自のネットワーク(これに関しては別のレポートとして報告するつもりである)を通じた特定の画像解析専門家によるアドバイス、あるいは共同研究によって論文化可能な結果を得る。受け入れ側のノードからの視点で説明すると、ユーザが一定期間ゲストとして滞在することになる。また、自分のノードで不可能なイメージング技術を利用したいローカルのユーザーには、別のノードを紹介する。

EuBI固有の研究所は存在せず、ファシリティ間のネットワークを管理・強化・広報するための事務局が、ハイデルベルクのEuropean Molecular Biology Laboratory(EMBL、基礎生物学のイメージング中心)と、ウィーンのEuropean Institute for Biomedical Imaging Research(EIBIR、医療・医学イメージング中心)に存在する。暫定的な評議会は欧州の25カ国の代表者によって構成されている。それぞれの代表者は、各国それぞれのファシリティネットワークを代表しており、EuBIは、国レベルのファシリティのネットワークをまとめあげるハブ、ということになる。全体ではおよそ3000人の研究者・企業スタッフがかかわっており、、ELMIのメンバーはそのほとんどがEuBIに関わっている。また、50の企業がEuBI産業評議会に加わっている。

、Euro-Bioimagingに参加している国およびそれぞれのファシリティネットワークへのリンクは以下になる。

Royal Microscopy Society

URL: http://www.rms.org.uk/ 王立顕微鏡協会(英国)

QBI

URL: http://www.quantitativebioimaging.com/

Bioimage Informatics Meeting

URL: https://sites.google.com/site/hanchuanpeng/bioimageinformatics_resource

EuBIAS

http://eubias.org/

BIAS

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